乳がんは遺伝する?遺伝性乳がんの特徴や治療法についても解説します。

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2024.09.27

乳がんの発生に遺伝子が影響する場合があるということを知っていますか? 乳がんは日本人がなりやすいがんとして有名であり、実は遺伝によって発症しやすくなるがんの一つです。 家族に乳がん患者がいる方は遺伝子の影響により、乳がんになりやすくなる可能性があります。遺伝子の影響と聞くと、家族に乳がん患者がいる方は全員乳がんになりやすいと思われるかもしれませんが、そうではありません。 がんになりやすいかどうかは、がんの発生に影響する「遺伝子の変異の受け継ぎ」の有無で決まります。遺伝子の変異が引き継がれたということは、がんになりやすいということを意味するのです。 遺伝子の変異が受け継がれた場合にも、乳がんの発生や死亡率を下げるために行うべき処置や検査がいくつかあります。 このように、今回の記事では乳がんの遺伝に関する情報や遺伝性乳がんの特徴、そして予防法や治療法を紹介します。 乳がんと遺伝の関係を知り、遺伝による乳がんの発症リスクと、どのように向き合っていくのかを知る助けにしていただければ幸いです。

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1.乳がんの基礎知識

乳房は乳汁をつくる乳腺とそれを囲む脂肪組織からなり、大胸筋という筋肉で支えられています。乳腺は乳管と小葉(しょうよう)からできており、乳頭から放射状に乳房全体に分布しています。 乳がんは乳腺の組織にできるがんで、乳管と小葉の上皮組織から発生し、増殖することにより、しこりとして見つかります。乳房のしこり以外にも、乳頭・乳輪の湿疹やただれ、乳頭からの分泌物などが乳がんの症状としてあげられます。 乳がんの発生の一因として、女性の生理を司る女性ホルモンである「エストロゲン・プロゲステロン」の分泌が挙げられます。40歳以上の方、肥満の方、家族に乳がんにかかった人がいる方などはエストロゲン・プロゲステロンの分泌量が多くなりやすく、乳がんを発症しやすいと言われています。

2.日本における乳がんの近況

2人に1人が生涯で一度はがんを発症するといわれている現代。2018年の全国がん登録データによると、1年間で新たにがんと診断された方は約98万症例あり、その中で女性のがん罹患数は421,964人、うち乳がん罹患者数は93,858人でした。これは女性のがん患者の22.2%にあたり、女性が罹患するがんの中で最も患者数が多いといえます。 食生活や生活習慣により患者数は近年上昇傾向にあり、日本人の9人に1人が乳がんと診断されています。 乳がんは年間で15000人前後の人が亡くなられており、また30~64歳の女性に絞ると、女性のがんによる死亡者数で1位です。ただ、乳がんは早期に見つけることで完治可能ながんとしても有名です。 乳がんの進行具合による治療効果の指標となる5年生存率は0期であれば100%であり、進行が進むにつれてⅠ期95.2%、Ⅱ期90.9%、Ⅲ期77.3%、Ⅳ期38.6%は下がっていきますが、初期のステージと言われている1期までで、95%以上と高い生存率となっています。 このことから、乳がんは早期治療を行うことで、治癒可能な病気といえます。早期に発見するため、定期的な乳がん検診を受けることは重要です。

3.乳がんには遺伝子が関係する!遺伝性乳がんとは

3-1.乳がんになりやすくなる原因とは 女性ホルモンと遺伝が重要

がんになりやすくなる原因はがんの種類により異なりますが、乳がんの場合では「女性ホルモン」「遺伝」が大きく影響するとされています。んの 乳がんの発症にはエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが関係しており、このエストロゲンが分泌されている期間が長いほど、乳がんのリスクが上昇します。このエストロゲンの分泌には「妊娠・出産・閉経」「生活習慣」が関与します。具体的には閉経年齢が高い、出産経験がない、飲酒、喫煙、閉経後の肥満、などが挙げられます。 多くのがんは生まれてから生活習慣などにより、後に遺伝子に生じた変化が原因であり、次の世代に遺伝することはありませんが、乳がんでは5〜10%は遺伝性であるといわれています。 遺伝性の乳がんは乳がん全体の中では少数にすぎませんが、どのような場合に遺伝性乳がんの可能性が考えられるのかという情報を知っておくことは、自身や家族の健康を管理するうえで有用であるでしょう。 また遺伝による影響を正しく理解し、自身の乳がんリスクを知っておくことが乳がん予防において重要です。

3-2.乳がんに関する遺伝子 BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子

遺伝子は体を正常に活動するための情報が含まれたものであり、人それぞれ異なりま す。ただし、その異なる部分はほんの一部であり、あとの残りの部分は皆共通しているとされています。このひとりひとりの遺伝子で異なる部分をバリアント(変化) といいます。乳がんはこのバリアントの差で、乳がんになりやすいかなりにくいかが決まるといわれています。乳がんに関係する遺伝子には「BRCA1」と「BRCA2」があります。このBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子は、誰もが持っており、これらの遺伝子から作られるたんぱく質にはDNAが損傷した際に正常に修復する働きがあります。これにより、細胞ががん化されることは防がれます。 これらの遺伝子が正常に機能しないことで、たんぱく質が作られない、もしくは働かない場合に、傷ついたDNAの修復が行われないことで、さらに他の遺伝子の変化が起きやすくなり、結果としてがんを発生しやすくなります。 このように、がんの発症と関連のある遺伝子の変化を「病的バリアント」と呼び、「BRCA1」と「BRCA2」に病的バリアントがある場合に乳がんを発症しやすくなります。

3-3.乳がんの遺伝子は必ず引き継がれるわけではない

人間はほとんどの遺伝子を通常、2つ1組で持っています。この2つの遺伝子は両親から受け継いでおり、1つは母親、1つは父親から受け継いでいます。 両親のどちらかが病的バリアントを持っている場合には自身がそれを受け継ぐ可能性は2分の1の確率といえます。裏を返すと、両親が病的バリアントを持っていたとしても、自身に受け継がれていない可能性もあります。 このような原理で遺伝子が受け継がれる可能性は推定されますので、より自身に近い血縁者に乳がん患者がいるほど、また血縁者に乳がん患者が多くいるほど、乳がん発症のリスクは上昇していきます。 乳がんに関する研究において、両親、子供、姉妹のいづれかに乳がん患者がいる女性はいない女性の2倍、祖母、孫、叔母に乳がん患者がいる女性はいない女性の1.5倍の乳がん発症のリスクが高まることがわかってきています。 乳がんを発症した方が家族にいる場合には乳がんに注意が必要と言えるでしょう。

3-4.遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)って聞いたことある?

BRCA1もしくはBRCA2に病的バリアントが存在している場合、乳がんだけではなく卵巣がんも発症しやすい傾向があることがわかっています。このようにBRCA1もしくはBRCA2に病的バリアントを持っていることによって、がんに罹患しや すいこと(体質)を遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と呼びます。 日本では、乳がん患者さんの約4.2%、卵巣がん患者さんの約11.8%にBRCA1もしくはBRCA2の病的バリアントを認めたという報告があり、珍しくないものです。日本人ではがんの発症に関わらず、200〜500人に1人がHBOCに該当するとも言われています。 HBOCの方は乳がんや卵巣がんを発症するリスクが高いとされていますが、必ず乳がんや卵巣がんを発症するわけではありません。もちろん、一生でがんを発症しない人もいます。 HBOC(BRCA1もしくはBRCA2遺伝子の変異をもつ女性)の場合、乳がんの生涯発症リスクは26〜84%です。それに対し、卵巣がんの生涯発症リスクは病的バリアントをもつ遺伝子により異なり、BRCA1変異の場合は35〜46%、BRCA2変異の場合は13〜23%と言われています。 HBOCの方は乳がんや卵巣がんを過度に恐れるのではなく、リスクと自身のリスク許容度を天秤にかけ、どのような検診を受けていくのか、乳がんになった場合にはどのような治療を行うのかなどを検討することが重要です。

【参考文献】 遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を ご理解いただくために https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/breast_surgery/hboc/hboc_JOHBOC_2022_2.pdf

3-5.乳がんのHer2陽性って何?乳がんにおけるサブタイプ分類とは

乳がんと遺伝に関連する用語として「Her2陽性」という言葉を耳にします。Her2(Human epidermal growth factor receptor 2) とは乳がんに関連するがん遺伝子で、乳がん全体の15〜30%がHer2陽性であることがわかっています。

Her2 は乳がんの進展に関わる糖タンパクで、細胞表面に存在します。Her2タンパク質を作り出す遺伝子の数が、乳がんにより増加することがあります。HER2遺伝子の数が増えると、たくさんのHER2タンパク質が作られてしまい、必要のないときにも細胞が増殖し、がんが発生しやすくなると考えられています。自身がHer2陽性であるかを知る方法として、免疫染色でHer2タンパク質量を調べる「IHC法」と、Her2タンパク質をつくるもととなる遺伝子の増幅を調べる「ISH(in situ hybridization)法」があります。Her2陽性の場合には治療効果の高い化学療法と抗HER2療法の併用が実施されるため、乳がんになった場合にはHer2の陽性・陰性の判別は重要になります。

薬物療法は、乳がんに対して「再発の危険性を下げる(術前薬物療法・術後薬物療法)」、「手術前にがんを小さくする(術前薬物療法)」、「手術が困難な進行がんや再発に対して延命効果を得ることや症状を緩和する」などの目的のために行います。 薬物療法の種類はステージ(病期)、サブタイプ分類、再発のリスク、患者の希望などを考慮し、選択します。その中でも特にサブタイプ分類が重要です。サブタイプ分類は乳がんが何によって増殖するか(女性ホルモンまたはHER2タンパク)によって簡易的に決定されます。サブタイプ分類には、「ルミナルA型」「ルミナルB型」「HER2型」「基底細胞様型(トリプルネガティブタイプ)」の4つのタイプに分類でき、治療方針の決定に利用されます。

4.遺伝性のあるがんは乳がん以外にも存在するのか?遺伝とがんの関係

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多くのがんは生まれてから生活習慣などにより、後に遺伝子に生じた変化が原因であり、次の世代に遺伝することはありません、HBOCを始めとする一部のがんでは発症リスクが上昇します。 HBOCの場合、乳がん、卵巣がんが発症しやすいとされていますが、前立腺がん、膵がんなども発症リスクが高いことがわかっています。 前立腺がんの生涯発症リスクは遺伝子異常がない方で10.8%に対し、BRCA1異常で最大29%、BRCA2異常で最大60%となります。膵臓癌の生涯発症リスクは遺伝子異常のない方で2.6%に対し、BRCA1異常ではほとんど変化せず、BRCA2異常で2〜7%となります。 HBOCの方は乳がんや卵巣がん以外のがんにも注意が必要です。男性がBRCA1もしくはBRCA2遺伝子の変異をもつ場合は、乳がんのリスクは6%程度といわれています。また、前立腺がんのリスクが高いため、注意が必要です。 遺伝性のがんを引き起こす原因となる遺伝子としては他にも、家族性大腸腺腫の原因となる「APC」や、網膜芽細胞腫を引き起こす「RB」などが知られています。 がんになりやすい遺伝子異常があるかどうかは、遺伝子検査によって判断する必要があります。

5.乳がんの遺伝子検査を受けるべきか?

遺伝子検査を受けることで、遺伝性乳がん及びHBOCの原因であるBRCA1・BRCA2の遺伝子異常の有無を判別することができます。遺伝学的検査は血液を調べる検査のため、通常の採血で行います。そのため、検査自体は患者の体への負担が小さいといえます。 すべての医療機関で遺伝性乳がんに関する遺伝子検査を受けることができるわけではありません。遺伝子検査は、限られた大学病院やがんの専門病院、地域の基幹病院(拠点病院)などで行うことが可能です。またBRCA1・BRCA2遺伝子に関連する遺伝子検査を受ける場合には、検査前に遺伝カウンセリングを受けましょう。自身がほんとに乳がん検診を受けるべきか、専門家と相談することで心理的負担が軽減します。

乳がんを発症していない方が遺伝性乳がん・HBOCかどうかを調べる際のBRCA1・BRCA2遺伝子の検査は健康保険の適用対象になっていません。そのため、自費診療となり、施設間で違いはありますが、30万円前後の施設が多い傾向です。

乳がんと診断された方の場合には、以下の条件に1つでも当てはまればBRCA1/2遺伝子検査が保険適用となります。

  • がんの治療において、分子標的薬オラパリブの適応かどうかを判断する場合
  • 45歳以下で乳がんと診断された
  • 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんと診断された
  • 両側の乳がんと診断された
  • 片方の乳房に複数の乳がん(原発性)を診断された
  • 男性で乳がんと診断された
  • 卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
  • ご自身が乳がんと診断され、血縁者*に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる

自費診療では費用が高いため、乳がんリスクを知るために遺伝子検査を受けるべきかは判断が難しいところです。ただ、乳がんの発症リスクを知ることで、乳がん検診を受ける間隔を短くしたり、予防的に乳房を切除するなど自身で予防のための選択肢を選ぶこともできるようになるため、メリットは十分にあるといえます。

5.遺伝性乳がんやHBOCと診断されたらどうする?治療法や保険適用について解説

5-1. 遺伝性乳がんになるリスクを下げる?リスク低減乳房切除術(RRM)とは

以前、アメリカの人気女優アンジェリーナ・ジョリーさんが数年前、健康な乳房を両方とも切除したというニュースがありました。これは家族を乳がんで亡くした彼女が遺伝子検査により、乳がんリスクが高いことを知り、乳がんの予防目的のために行ったものでした。 HBOCの場合、一般の乳がんに比べて発症リスクが上昇するのみでなく、発症年齢が低い、両側乳房に発症する頻度が高いなどの傾向が見られます。 このため、HBOCの場合には予防的に乳房を切除するリスク低減乳房切除術(RRM)という手術を行う場合があります。RRMは乳がんが発症する可能性のある乳腺組織を発症前に切除することで、乳がんの発症を回避する目的で行います。乳がんの発症を約90%低減しますが、乳腺組織を全て取り除くことは困難であるため、絶対に乳がんにならないわけではありません。またRRMは発症リスクを抑えるものであり、生存期間を伸ばす効果は実証されていません。 これと付随してリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)も存在します。RRSOは乳房を切除するRRMに対し、卵管及び卵巣を切除します。RRSOを行うことで、卵巣がんの発症を79%低減します。さらに乳がんは女性ホルモンの影響を受けやすい性質のため。RRSOにより乳がんの発症リスクも51%低減します。RRSOは卵巣がん・乳がんなどによる全死亡リスクを60%低減するため、HBOCの方にとって大きな利益が得られる手術です。妊娠・出産の可能性や希望がない方はRRSOを行うことも検討する価値があると言えるでしょう。 HBOCに対するRRM・RRSOは予防目的の場合は自費診療で行うことになります。それに対し、乳がんをすでに発症している場合には発症していない側でのRRMやRRSOは保険適用とされています。

5-2. 乳がんの遺伝カウンセリングとは

遺伝カウンセリングは、遺伝性のがんについて相談できる窓口です。自身や家族の状況に応じて、遺伝的にがんを発症しやすい可能性の有無、適切な検診や検査、遺伝子検査を受けるべきかなど自身の希望に応じて、遺伝医学の専門家(医師、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー)に相談をすることができます。 日本では医療機関において医療行為として患者とカウンセラーが直接面談する形式で行われていることがほとんどです。通常の外来診療とは異なり、多くが予約制になっています。また個室で行うことがほとんどのため、プライバシーが保たれた状態でカウンセリングを受けることができ、気兼ねなく相談できます。 海外の研究では遺伝カウンセリングによってリスクの認知の正確性が増すこと、遺伝子変異を有する可能性の少ない人々における遺伝学的検査への関心が減少すること、がんに関する不安・心配を減らす効果がわかってきています。

乳がんになった人も、なってない人も利用可能な施設も多いため、不安を抱える前に一度相談をしてみてください。 遺伝カウンセリング実施施設とその医療機関で対応可能な領域は、「全国遺伝子医療部門連絡会議の遺伝子医療実施施設検索システム(URL http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)」にて確認することが可能です。

5-3.遺伝性乳がんは年一回のMRI検査を推奨!2年に一回の自治体乳がん検診では足りない?

乳がんの予防医療として、日本では40歳以降の女性は2年に1度の定期検診を推奨しています。定期検診では視触診やマンモグラフィ検査、乳腺エコー検査の中から患者の希望に合わせて、検査を行います。これらは自治体が主体で行っているため、検査費用が無料な場合がほとんどです。 ただ、HBOCの方では、この自治体検診のみでは乳がん予防で不十分かもしれません。それはHOBCの方は25歳以降から徐々に乳がん発症リスクが上昇していくこからです。 日本乳癌学会が公表している「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」において、HBOCに該当する方は乳がん検診を国が推奨している40歳以降に2年おきではなく、25歳以降に毎年受けることを推奨するとされています。 さらに自治体検診で行っているマンモグラフィ検査や乳腺エコー検査を用いた乳がん検診ではなく、より精度の高いMRI検査を用いた乳がん検診を推奨している。現状、日本においてはMRIを用いた乳がん検診は自治体では行っていないため、人間ドックや無痛MRI乳がん検診で行う必要があります。

【参考文献】 患者さんのための乳がん診療ガイドライン https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g1/q4/

6. 乳がんの遺伝子を持つ場合には、無痛MRI乳がん検診がおすすめ

無痛乳がん検診②

6-1.無痛MRI乳がん検診はMRI検査の最新技術

遺伝性乳がんの予防としてMRI検査を受ける場合には、無痛MRI乳がん検診(ドュイブス・サーチ)を利用すると良いでしょう。 無痛MRI乳がん検診は強力な磁石と電磁波を利用したMRI検査の一種で、乳房をさまざまな断面で撮影します。さらにMRI検査の中でもDWIBS(ドュイブス)という撮影技術を乳房の検査に活用することで、簡便に検出率の高い乳がん検査を実現します。 無痛MRI乳がん検診は病変検出率が他の検査と比べて高く、欧米では乳がんのスクリーニングとしてHBICを始めとするハイリスク群に対して行われており、今後の乳がん検診の新たなスタンダードとして期待されています。 最近では無痛MRI乳がん検診を行なっている施設が増えてきており、日本全国で受診できるようになりつつあります。

6-2.検査中の痛みがなく、安心

痛みが苦手な方の乳がん検診といえば、乳腺エコー検査とされてきましたが、近年では乳がんへの高い検出率を誇る無痛MRI乳がん検診(ドュイブス・サーチ)が新たな選択肢として注目されつつあります。 無痛MRI乳がん検診はマンモグラフィ検査のように圧迫版で乳房を挟む必要がないため、痛みはありません。また乳房に対する手術を受けた方でも傷口や人工物(シリコンなど)を気にせず、撮影を受診することができます。撮影自体は寝台に腹ばいで寝た状態で行い、乳房は寝台にある機械の穴の中に入れます。これにより、乳房全体を撮影することができます。 無痛MRI乳がん検診は磁気を利用して撮影する検査のため、マンモグラフィ検査と異なり、衣服が撮影の邪魔にならず、検査着のままでも撮影が可能です。このため、乳房を見せる必要なくプライバシーが保たれた状態で撮影が可能です。

マンモ・MRI比較

6-3.被ばくがなく、若年者でも受けやすい

無痛MRI乳がん検診(ドュイブス・サーチ)は磁気を使った検査のため、放射線は使用せず、被ばくはありません。被ばくがないため、何回受けても体への悪影響がなく、定期的に受ける必要がある乳がん検診に適した検査といえます。 またHBOCの方では若年者でも検査を受ける必要があるため、被ばくのない無痛MRI乳がん検診は適しているといえます。 放射線を使用しないため、妊娠中も可能と考える方もいらっしゃいます。磁気は胎児への影響の可能性を否定できないため、妊娠中の方は検査を避けた方がよいでしょう。

6-4.乳腺濃度の影響を受けづらい

無痛MRI乳がん検診(ドュイブス・サーチ)は乳腺濃度の影響を受けないため、若年者に多い高濃度乳腺(デンスブレスト)の方にも適した検査です。乳腺はマンモグラフィ検査の撮影画像を見づらくするため、乳房の大半が乳腺である高濃度乳腺は乳がんを見落としやすくなります。無痛MRI乳がん検診では乳房の基本組織である乳腺と脂肪はどちらも白く映り、乳がんは黒く映ります。このため乳腺濃度の高低に関わらず、乳がんと乳房で白黒のコントラストがつきやすく、高濃度乳腺でも乳がんを見つけられます。HBOCの方は若年者でも乳がんのリスクが高いため、高濃度乳腺でも乳がんを検出しやすい無痛MRI乳がん検診は適していると言えます。

6-5.検出範囲が広く、検出性度が高い

マンモグラフィや乳腺エコー検査などは乳房の奥側にある胸壁や脇の下などは撮影が難しいとされています。無痛MRI乳がん検診(ドュイブス・サーチ)では有効感度範囲が広く、胸壁や脇の下など他の検査で映りきらない範囲を死角なく高精度で検査することが可能です。 無痛MRI乳がん検診の診断精度は、従来の乳がん検診と比べて、3〜4倍も高いという報告があります。2023年2月のデータによれば、既に約17,000人がこの検査を受け、その中で1,000人に対し約20人の割合でがんが検出されているという結果が示されています。 海外で実施された研究結果を見ると、BRCA1 変異保持者を対象とした多施設共同研究では,94 病変のうち,MRI では88 病変(93.6%)が検出されたのに対して,マンモグラフィによって検出可能であった病変は48 病変(51.1%)であったという報告もあります。 このように無痛MRI乳がん検診の検出率は非常に高いといえます。

【参考文献】 Obdeijn IM, Winter-Warnars GA, Mann RM, et al. Should we screen BRCA1 mutation carriers only with MRI? A multicenter study. Breast Cancer Res Treat. 2014; 144(3): 577-82.[PMID:24567197]

6-6.費用が高い

無痛MRI乳がん健診(ドュイブス・サーチ)は最新の検査技術のため費用が高価です。マンモグラフィ検査や乳腺エコー検査のように、自治体検診は行われていないため、病院での診療を除き実費でのみ検査できます。 ただ乳がんは早期であれば治癒が十分可能です。乳がんリスクの高いHBOCの方であれば、検出効率が高い無痛MRI乳がん検診を行うメリットはあるでしょう。乳がんの治療開始が遅れた場合、治療費が増加してしまうことも考えれば、トータルコストは安くなる可能性もあります。

7.まとめ

乳がんの遺伝は乳がん発症リスクに大きく影響します。 遺伝子変異により乳がんの発症リスクが高い方にはMRI検査が有用とされており、無痛MRI乳がん検診は選択肢の1つといえます。 遺伝性乳がんの予防効果が高いリスク低減乳房切除術(RRM)を行う場合には、身体だけではなく、心身への負担も考えられます。精神的負担にならないよう自身のみで考えず、専門家の遺伝カウンセリングを受けることを検討しても良いかもしれません。 遺伝によって乳がんの発症リスクが増える可能性があるということを極度に恐れる必要はありません。重要なことは自身がどの程度のリスクであることを知り、リスク低減乳房切除術を行う、乳がん検診の頻度を増やす、検診にはMRI検査を利用するなどの対応を自分に無理のない範囲で行うことです。

今回の記事を参考に、自身が遺伝性乳がんとどのように付き合っていくのかを考えてみてはいかがでしょうか。

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